阿賀野上ノ城の事件簿

昔は名探偵でした。

南極ゴジラ「インスタント桃源郷」の感想みたいなやつ

感想を呟くと抽選でもらえるらしいサコッシュ。無性にほしくなったので、感想でもつらつらと書いていこうかと。盛大にネタバレしているので、未視聴の方はご注意を。まずは前日譚的なやつから。

 

【#0 おーい彗星、何億光年?】

声・ユガミノーマル

 

 

「もしかしてやけど、お父ちゃん。あんたなんか?あの星は」

  彗星が落ちて始まる「インスタント桃源郷」、その前日譚的なやつ。

星を見つけるという夢を叶えることが出来ずに逝ってしまった夫に代わり、望遠鏡で星を探し続ける妻の話。

ユガミノーマル氏の老人演技を僕は何度も拝見しているが、お婆さん役は初見(初聴?)。笑いすぎて痰が絡まるところが特におもろい。

 

 

 

ここから5月1日に配信開始された本編たち

 

 

 

【♯1 クロールひと掻き、息継ぎは苦手】

声・瀬安勇志

 

「誰かを好きになることは、息を止めて海をもぐることに似ている」

人の居なくなった東京で孤独を抱えた男が、マッチングアプリで知り合った女にのめり込んでいく。よくある話。でも今、この状況だからこそこの展開はリアリティを持って届く。画面の中の人達のとの会話や呟きやライブ配信に、以前よりも「繋がってる」感覚を持つのは僕だけじゃないはず。

途中の音楽がいい。入りのタイミングも好き。

ところで瀬安氏よ、「ケラケラした笑い方」のイントネーションが面白いぞ。

最後の締めのセリフが好みだった。

 

 

【♯2 回送電車は桃源郷ゆき】

声・古田絵夢

 

「私はそれを、いつまでもいつまでも見ているのでした。蛍の数を、ゆっくりと、数えながら」

歩く話。しかし映像は電車の車窓とはこれ如何に。

セリフ回しは小気味よく、古田絵夢さんの語りも軽やか。なんだけど、冷静に考えると展開は割と怖い。夜の山で一人、携帯の電源が切れて、明かりもない。闇の中で電車を追いかけて走った先は崖。蛍の群れは、女にとっての桃源郷。というかもはや唯一の救いでは。状況が壮絶すぎてラストシーンには美しさだけでなく恐ろしさも漂っているような気がするのは僕だけかしら。

 

 

【#3 好物は鮭。名前はまだ無い。】

声・こんにち博士

 

「この感覚は、何年ぶりだろうか。首元の鈴が、嬉しそうに音を立てた」

こんにち博士さんのこれでもかという巻き舌演技。ひねくれ猫感がでててめっちゃ好き。巻き舌出来ない僕としては羨ましい限り。

#2で女がみた電車はまさかの猫が動かしていたことですよね?!まさか運転手が人外だったとは……。

#2の女が崖から落ちた後に「腕と足がちゃんと四つあることを確認して」と言ったのに対して、電車から飛び出した猫は「ちゃんとしっぽも付いている」という言い回しをしてる。種の違いを感じてふふっときた。

野良猫なのに鈴をつけていて、人間に抱えられた感覚を「何年ぶりだろうか」と表現している。この猫、恐らく元は飼い猫だったのでは。

 

 

【♯4左手に瓜、右手に砲丸。】

声・瑠香

 

「飛んでけ。飛んでけ。どこまでも、私の中の葛藤も、もやもやも、何をかもを追い抜かして。彼方まで。」

#2の女の妹さんだ!とすぐわかる。

インターハイが中止になって、ほっとする陸上部員の話。「ああ〜終わった〜終わっちゃったぁ〜私の夏」ってセリフがあったけどあの言い方、あの軽さのリアリティが凄い。わかる。レギュラー争いってほんと、競技の楽しさを超えるほどしんどい時があるんだよ。

#3の猫を救ったのはこの作品の主人公でした。ということは猫を抱えて行ったのもこの人かな。

最後の歌はどこでダウンロードできますか?

 

 


【♯5馬鹿で、のろまで、夕日も見ないで】

声・和久井千尋

 

「自分が消えたあともこの世界は何事も起こらなかったように動くのだろうと思うと、堪らない気持ちになった」

和久井千尋さんの声の演技に脱帽。とても聞き取りやすかった。この作品は最初から最後まで不穏。ユーモアも控えめで、男の閉塞感がバンバン伝わってくる。

悪意ある書き込みを現実にするという神のような力を得ながら、男は誰にも自分を認識されていないという孤独から追い詰められていく。全作品のうち、この作品の主人公だけが他者との繋がりを感じるシーンがない(ラジオに送ったお便りは届くのだけれども、男が認識することはない)。

映像が好き。特に初めのネットサーフィンの様子。ああいうのいつまでも見てられる。

 

【♯6 退屈曜日はあくびも出ないし】

声・九条えり花

 

「私には、溢れるほどの可能性があるんです。まだ見た事もない世界があるんです」

ツボにハマってめちゃくちゃ好きだった。思考をそのまま文字にしたようなセリフ回し。と思ったら全部口に出してんのかい。

コンビニドミノの実況がいつの間にか自分語りになっていくところがアツい。こういうナレーター風自分語り好き。

映像のアニメ(?)の雰囲気も良き。だんだん賑やかになっていく。

雰囲気は好きなのだけれど、なかなか消化できなかった作品でもある。女がみた球体とは……? どうしてこのフリーターはこんなに球体に心動かされたんだ……?どうしても分からない、謎が多く残った作品だった。誰か教えてえらい人。もしくは作者さん。

そして、主人公は#1の姉だったんだね。また一つ繋がり発見。

 

【♯7 我慢はできるか、テレパシーさえ】

声・TGW-1996

 


「花子よ、どうかお願いだ。もっともっと大きくなって、富士山やエベレストよりも大きくなって私を踏み潰してくれないか」

日本の総理大臣と宇宙人の邂逅の話。物語の根本である「彗星」の正体に触れる重要な回。

世界を脅かす巨大ガニは総理が飼っていた蟹、花子の姿をしていた。総理としての責任感と、花子への愛情の間で揺れる総理は葛藤の末が描かれ、最終的に総理はカニの元へ向かう。というなんとも自分勝手なエモい話。

ただ、以前に#5を聞いてるので、こりゃあの主人公が勝手に作った設定の「結果」として現れた物語なんじゃないの?みたいなことを考えてどうも心はスッキリしない。

 

【♯8 光の速さでうなるタコ部屋】

声・井上耕輔

 

「じゃあ聴いてくれ。彗星」

20年間続いてきたラジオに初めて届いたお便りは、罵詈雑言に溢れたものだった。「このラジオを聴いている人は誰もいないでしょう」という悪態にDJはブチ切れながら「俺が聴いてんだよ!」  と答え、また歌を歌う。

#1、#5で触れられたラジオのDJによる最終回。#0を除くと本編の中で1番短い作品なのだが、井上耕輔さんの歌声と演じる男のブチ切れ、謎の名言など魅力は缶詰のごとく詰まっている。ただ、催涙弾一気飲みだけは僕の理解力を超えてしまって少々聴くに耐えない。

「優しかったおじいちゃんのこととか思い出すのが一番いいぜ」というセリフ。#0で死んじゃったおじいちゃん繋がりってのはさすがに深読みしすぎか……?

最後の流れに鳥肌が立つ。最終回でありながら、彗星に関してあまり触れてないなと考えていたら最後の最後に来る。この回が物語の幕引きとなるのも納得。めちゃくちゃかっこいい。

あと最後の歌のCDはどこで売ってますか?

 

 

 

【なんか本編全体のお話】

とりあえず、それぞれ物語にとっての「桃源郷」を考えてみる。

 

#1「マッチングアプリで知り合った女」

#2「蛍」

#3「電車の行先」

#4「砲丸投げ(またはその日々?)」

#5「パソコン?」

#6「謎の球体」

#7「花子」

#8「イナズマRadio」

 

まあ全部とは言わずとも半分は当たってると信じたい。

 

「インスタント桃源郷」というタイトル通り、9つの作品に通じてあるものは、各々にとっての「桃源郷」と、その「インスタント」さ。大なり小なり、日常に変化が生まれた世界でそれぞれにとっての「桃源郷」を見つけたり、溺れたりする。ただし、その桃源郷はとても脆かったり、独りよがりだったりする。

#1の男がのめり込んだ女の人は、顔も知らない画面の先の存在。#2の女は山奥で遭難したまま。#3の猫が目指した桃源郷には辿り着かず、#4にとっての青春は彗星のせいで終わってしまい、#5の男は自分のデマで作った世界の中でなお孤独を抱える。#6の女が見た球体は消えてしまう。#7で総理が迎えに行く花子はもう花子じゃなくて宇宙人だし#8のDJがつくりあげた番組は通りすがりのリスナーによって否定される。

それぞれにとっての桃源郷はとても弱い。各々にとっての「桃源郷」が現れると同時にその儚さ、危うさも映し出している点。これがこの作品最大の魅力ではないか。

 

そして個人的に全回を通して一番響いたのは、最終回の「俺が聴いてんだよ」というセリフ。一度桃源郷を否定された男はそれでも俺は好きなんだと言い切る。不確かな桃源郷を肯定してくれる言葉であり、だからこそ最終回としてあのお話があるのではないか。そんな風なメッセージ性を、自分勝手に感じた。

時間がある時にでも、僕にとっての桃源郷ってなにかなーとか、考えてみるのも悪くないかもね。

 

それと、どうやら続編が出るようなので、また特典があれば聴いてみようかしら。おしまい。